増幅する陸・海軍の相互不信

連合艦隊司令長官山本五十六ラバウル死守のためのガダルカナル航空基地を空爆する「い号作戦」のX戦は43年(昭和18)4月7日から14日まで行われ日本軍は682機
出撃。実際の戦果は駆逐艦・油槽船各一隻、輸送船二隻を撃沈、輸送船・給油艦等三
隻大破。飛行機12機撃墜にとどまり、逆に日本軍は21機の飛行機を失います。

パイロットの自己申告による戦果報告は過大となり、飛行機に至っては10倍超の1
34機撃墜となります。山本はこの作戦が成功したと信じ前線の将兵を激励するため、
4月18日午前6時5分ラバウル基地からバラレ基地に向けて飛び立ちます。

午前7時40分頃、ブーゲンビル島ムツビナ上空で、山本の前線視察の暗号を解読して
いた米海軍のP3812機編隊と交戦となり山本機は火を噴いてジャングルに墜落。山
本の戦死は伏せられていたが5月21日発表され、国民に大きな絶望感を与えました。

連合艦隊司令部は山本機撃墜は暗号解読のせいと疑います。海軍の乱数表は4月1日
に改変したばかりで、陸軍のバラレ守備隊長からブインにある第17軍司令官宛てに
打った電報が怪しいと考えます。こうして陸軍・海軍間に不信感だけが潜在化します。

東条は海軍に対する不満を赤松貞雄や鹿岡円平らの秘書団に洩らします。「太平洋の
戦闘は海主陸従の筈なのに、戦闘が良くいっている時はその戦果をとくとくと発表す
るが、作戦が失敗すると安易に陸軍に泣きついてくる」「海軍にひきずられるのは、
陸軍にとって決して好ましいことではない」----と

東条は自らの不満を連絡会議や海軍側との話合いの席では、絶対口にしません。一度
口にしたなら海軍側の反発を買い、政権の座に留まることができなくなるからである。
東条には国家の中枢を正すための度量を持っていたとはとうてい言えないのである。

戦争を指導する重要な連絡会議は本音を隠し建前だけの無味乾燥な会議に終始し、延
々と敗戦まで続くのである。いやこの重大な危機管理能力はいまだに欠如していると言わねばならない。


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