初の問責決議

日銀総裁人事をめぐる福田首相の迷走ぶりに、首相のリーダーシップが見えない、福田の政治的未熟さが際立つなどの批判が与党内部からも噴出した。早々とポスト福田への動きが始まったのは、福田・小沢の対決が偽装と露見したのと表裏をなしている。08年4月9日東京南麻布の料亭で小泉元首相が自ら呼びかけ、自民・民主両党議員と経済人との夕食会の席で「ここには前原誠司さんや小池百合子さんという将来の首相候補がいる」と語った。

これが伝えられると、小池百合子待望論がにわかに現実味をおびてくる。しかし福田も包囲網が狭まってくるのを漫然と眺めていたわけではない。5月6日に中国国家主席胡錦濤の来日を実現させ、5月28日から横浜で開かれたアフリカ開発会議で、40人以上のアフリカ各国首脳との個別会談をこなし、レアメタルなどの資源確保や国連の常任理事国改革について日本への協力を要請した。

6月初旬には、ドイツ、イギリス、イタリアを訪問し洞爺湖サミット議長国として、フランスを含む四ヵ国首脳と会談して協力を要請。その訪問中の3日にはローマで開かれた食糧サミットにも出席し、食糧価格高騰で苦しむ途上国に5千万ドルの緊急追加支援を行う方針を表明して日本の存在をアピールした。こうした一連の動きで、国民に「外交の福田」をそれなりに印象づけた。

失効したガソリン税などの暫定税率を復活させる租特法改正案が再可決されたのは、08年4月30日の衆院本会議においてだった。みなし否決による再可決である。これに抗議する姿勢を示すため民主党は、参院での福田に対する問責決議案を準備していた。ただし、衆院での内閣不信任決議と違って法的拘束力がないため、可決されても内閣が総辞職したり衆院を解散したりする必要はない。

5月7日民主党代表小沢は幹部らと協議し、首相に対する問責決議案を出さないことに決めた。その理由は共同通信社による世論調査で、この時の内閣支持率が19.8%で、いわゆるレッドラインを越えており、国会審議の場で後期高齢者医療制度などを徹底追及したほうが、福田を追い詰められると判断したからである。だが世論は、せっかくの機会に攻めきれない民主党に嫌気がさしていた。

会期末直前の6月11日民主党参院本会議で福田に対する問責決議案を提出し野党の賛成多数で可決させた。現行憲法下で初めての問責決議である。福田は記者団の質問に「衆院の解散・総選挙は考えていない」と即座に否定する余裕を見せた。それは問責決議の提出・可決が明らかにタイミングを外していたことを示していた。6月14日の共同通信社世論調査内閣支持率が25%に回復し、それを裏付けていた。

民主党反執行部の幹部議員たちはテレビに出演して「問責決議案はガソリン暫定税率の再議決の直後に出すべきだった。会期末の提出は間違いだ」と執行部を公然と批判した。その批判は正鵠を得ているとしても、自制心を欠いた無責任な評論家的発言にほかならない。このような民主党に内蔵する軋轢には、はたして政権担当能力があるのかどうか疑わざるを得ない。


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