懲りないバラ撒き政策

麻生首相は経済の現状について「百年に一度の金融災害とでも言うべき米国発の暴風雨」という認識を就任直後の記者会見で示した。証券化商品を含む金融派生商品の総額、そのうちどれだけ毒を含んでいて、どの程度の損失を生み出すのか、作った金融資本家はもちろんどの金融機関さえ把握していない。にもかかわらず08年9月29日の所信表明演説で「日本経済は全治三年」と言切った。

そもそも麻生内閣は、発足間近の10月初めに衆院を解散し、同月末の総選挙に雪崩れこむ「選挙管理内閣」と位置づけられていた。しかし深刻度を増す経済状況を放って解散・総選挙に突入するわけにもいかない。だが自民党と連立を組む公明党は、早期解散・総選挙に固執した。支持母体である創価学会は各選挙区での票数調整のため学会員に住居を移させるという住民移動を含めた臨戦態勢に入っていたからである。

加えて昨年、元公明党委員長・矢野絢也が「公明党の議員は衆院なら300万円、参院は600万円を党に上納しなければならない」「創価学会施設が選挙活動に利用されている」などと暴露。そして矢野は評論活動を止めるよう強要されたとして創価学会を訴えた。これに対し創価学会は矢野を名誉棄損で訴えた。この矢野問題を回避するためにも、公明党臨時国会を長引かせずに早期解散・総選挙に固執したのである。

臨時国会が始まるや民主党固執した矢野問題は、話題とされることがなくなった。前回総選挙での民主党次点組や当選1〜2回の若手議員は、今春あたりから選挙モードに突入していた。当然ながら事務所費や人件費など多額の資金を投入しているわけで、解散が遅くなればなるほど出費は嵩むばかりだ。そのためにも民主党としては麻生の経済対策優先方針に長々つきあっているわけにもいかない。民主党補正予算案も新テロ特措法改正案も容認する姿勢に転じた。

この民主党の戦術転換に乗じた麻生は、08年10月30日緊急記者会見を行った。評判の悪かった補正予算に追加するもので「新総合経済対策」と称する第二次補正予算を編成する方針を示した。問題は公明党要求の定額減税が変化した2兆円にのぼる定額給付金の支給である。所得制限せずに全世帯に一世帯四人家族で約6万円支給という内容である。制度でなく一時的にバラ撒くという感性に、自公政権よ狂ったかと言いたい。

人間が資本や資金の投機対象として犠牲になったのがサブプライムローン問題の原因である。今、問われなければならないのは資本主義の在り方だけでなく人間の在り方である。次の衆院総選挙は各党から投機資本主義の崩壊に伴う混乱から、人々をどう守るか、新しい国づくりの仕組みをどうするかという問題が提起されるべきである。

麻生の「新総合経済政策」には、こういう歴史認識が欠けており、50年前の高度成長期、自民党一党支配で行ってきた官僚の持ち寄りによる、選挙対策用のバラ撒き政策から一歩たりとも進歩していないのである。


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