尖閣諸島国有化

官邸と外務省は、尖閣諸島を国有化した際に想定される中国との関係についてシミュレーションを始めた。石原都知事の「国士」としての扇動的発言や行動が、緊張のエスカレーションを招くことが十分に想定された。東京都による購入を阻止しなければならない、そして平穏かつ安定的な維持・管理をめざすという方針が徐々に官邸内に浸透していった。外務省事務次官佐々江賢一郎は、戴秉国国務委員らに働きかけ、尖閣諸島国有化に向けた政治環境の整備に努めた。

東京都が尖閣諸島購入のため政府に求めていた上陸申請について、12年8月27日には官房長官藤村修が許可しないことを発表した。8月28日時事通信社は「対日問題を担当する複数の中国政府筋」の話として、中国政府が日本政府に対して尖閣諸島に「上陸させない、調査をしない、開発しないの三条件を策定し現状維持を求めていく方針を内部決定した」と報じた。

9月9日ウラジオストクで開催されたAPECの首脳会議で、野田首相胡錦濤国家主席は立話をする機会があった。野田は2日前に雲南省で発生した地震への見舞いを述べた。それに応えることなく胡は、尖閣諸島国有化方針について「すべて不法で無効だ。断乎反対する」と強い口調で迫った。ぶれないを信条とする野田は、10日関係閣僚会議を開き国有化を決定し、11日所有権の移転登記を完了した。

温家宝首相は9月10日「中国政府と国民は主権と領土の問題で半歩たりとも譲らない」と声を荒げた。中国中央電子台はじめテレビ、新聞、ウェブサイトの報道は連日にわたり日本の尖閣国有化への反対論を扇動した。これに呼応し中国大陸の各地で反日デモが発生し、中国政府に雇われた暴徒は日系企業の工場、スーパー等に破壊・放火・略奪行為に走った。またいくつかの都市で日本人が暴行を受ける事件も発生した。

サンフランシスコ講和条約の段階では中国は尖閣諸島について何も言及せず、領有を主張し始めるのは、東シナ海の海底に石油の存在が確認されてからである。中国が尖閣領有を主張する根拠となったのは、佐藤栄作首相が沖縄返還の見返りに繊維交渉の密約を呑まされ、それを無視したことにニクソン大統領が激怒し、尖閣諸島を含む数々の報復を仕掛けたことにある。

歴史学者のシャラ―は著書「日米関係とは何だったのか」で「72年2月のニクソン訪中のあと、尖閣諸島について米国務省は日本の主張に対する支持を修正し、曖昧な態度をとるようになった。佐藤の推測によれば、ニクソン毛沢東の間で何かが話しあわれたことを示すものだった」と書いている。米国は中国を尖閣問題で焚き付けて、日本に圧力をかける外交カードとして使っているのである。竹島問題もそうだ。

08年8月1日付毎日新聞社説に「日本と韓国が領有権を主張している竹島の帰属先に関し、米政府の地名委員会がウェブサイト上の表記を『主権未定』から『韓国領』に再度変更した。6日に予定されている米韓首脳会談を前に韓国側に配慮したようだ」とある。要するに米政府は状況に応じて日韓を天秤にかけて、言うことをきかせるために竹島を利用しているだけなのである。

つまり、日本は米国隷属から如何に脱するか、それが問われているのである!


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